目次

- 生活保護受給者も引越しは可能です
- 条件を満たすと、引越し費用の補助が受けられます
- 引越しは、事前にケースワーカーと相談して行いましょう
生活保護とは、生活に困窮する方に対し必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障して自立を助長する制度です。生活保護受給者の方も、事情により引越しが必要になることがあります。この記事では、生活保護受給者が引っ越すための条件や料金、必要な手続きなどについて解説します。
生活保護を受けていても引越しはできる?
日本国憲法第22条では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とされています。そのため、生活保護受給者も引越しは認められています。
引越しは自由ですが、自己都合の引越しでは、引越し費用の全額を自己負担しなければなりません。生活保護を受給している方は金銭的に余裕がない場合も多く、自費での引越しは大きな負担と感じる方が多いかもしれません。自費で支払えたとしても、役所から「金銭的な余裕がある」とみなされて、生活保護の受給を打ち切られる懸念もあります。
ただし、「家賃が値上げされた」「離婚した」など、何らかの正当な理由があれば、引越しにかかる費用を支給してもらうことが可能となる場合があります。引越し費用の支給は「住宅扶助」という制度によって、上限が定められています。引越し業者の費用、家賃などが定められた範囲内で支給されます。ただし、急な引越しなどで、違約金が発生した場合に退去費用の支給が行われないため注意しましょう。
生活保護を受けている方が引越しできる条件は?
生活保護受給者が引越し費用を援助してもらうためには、条件を満たす必要があるとされています。厚生労働省では、18の条件を提示しています。以下のどれか一つでも該当すれば、引越し費用の支援を受けられる可能性があります。但し、事前にケースワーカーと相談を行うようにしましょう。
- 入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合
- 実施機関の指導に基づき、現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合
- 土地収用法、都市計画法等の定めるところにより立退きを強制され、転居を必要とする場合
- 退職等により社宅等から転居する場合
- 法令又は管理者の指示により社会福祉施設等から退所するに際し帰住する住居がない場合(当該退所が施設入所の目的を達したことによる場合に限る。)
- 宿所提供施設、無料低額宿泊所等の利用者が居宅生活に移行する場合
- 現に居住する住宅等において、賃貸人又は当該住宅を管理する者等から、居室の提供以外のサービス利用の強要や、著しく高額な共益費等の請求などの不当な行為が行われていると認められるため、他の賃貸住宅等に転居する場合
- 現在の居住地が就労の場所から遠距離にあり、通勤が著しく困難であって、当該就労の場所の附近に転居することが、世帯の収入の増加、当該就労者の健康の維持等世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合
- 火災等の災害により現住居が消滅し、又は居住にたえない状態になったと認められる場合
- 老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合
- 居住する住居が著しく狭隘又は劣悪であって、明らかに居住にたえないと認められる場合
- 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合又は高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合
- 住宅が確保できないため、親戚、知人宅等に一時的に寄宿していた者が転居する場合
- 家主が相当の理由をもって立退きを要求し、又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れを行ったことにより、やむを得ず転居する場合
- 離婚(事実婚の解消を含む)により、新たに住居を必要とする場合
- 高齢者、身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため、扶養義務者の住居の近隣に転居する場合
または、双方が被保護者であって、扶養義務者が日常的介護のために高齢者、身体障害者等の住居の近隣に転居する場合
- 被保護者の状態等を考慮の上、適切な法定施設(グループホームや有料老人ホーム等、社会福祉各法に規定されている施設及びサービス付き高齢者向け住宅をいう)に入居する場合であって、やむを得ない場合
- 犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受け、生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する必要がある場合
(生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて 引用)
これら18種類のうち、比較的認められることが多いのは「家賃額が自治体の規定している額を上回った場合」「病気の療養・身体障害において生活しづらい住居の場合」「家主から退去を求められたり借家の契約更新拒絶・解約をされたりした場合」の3種類のようです。
ただし、そのほかの条件も自分で気づかないうちに満たしている場合があるため、まずはケースワーカーに相談することをおすすめします。
県外・市外への引越しは生活保護の再申請が必要?

現住所から異なる都道府県や市区町村に引っ越すときは、改めて生活保護の申請が必要です。生活保護の申請は、前の自治体での生活保護が廃止される当日に行います。再申請が1日でも遅れた場合、国民健康保険に加入する必要があるからです。新居での生活環境変更に伴い生活保護が不要になるケースでない限り、再申請の手続きは必ず進めましょう。
また、生活保護の再申請には審査があります。継続受給に支障をきたすことのないよう、引越しの事前にケースワーカーとよく相談をし、福祉事務所間で移管手続きが行われるようにしてもらいましょう。
なお、都道府県をまたいで引っ越す場合、生活保護の支給額などが異なる可能性があります。引越しの前後で受給額に差が出るかもしれないため、事前に確認しておきましょう。
生活保護を受けている場合の引越し費用
引越しにはある程度の費用がかかります。正当な理由で引越し費用の援助が認められた場合、支給される範囲はどの程度なのでしょうか。ここでは、生活保護受給者の引越し料金について解説します。
行政から補助してもらえる費用
生活保護受給者は、引越しの際に敷金・契約更新料・住居維持費などを住宅扶助として自治体から受け取れます。そのほか、引越し料金・仲介手数料・火災保険料なども住宅扶助に該当する場合があります。
一方、管理費・共益費・水道光熱費などは住宅扶助の対象に含まれず、生活扶助の対象となります。旧居からの退去費用も、生活扶助のなかから自分で支払う必要があります。仮に引越し時、退去による敷金返還があった場合の取り扱いは、ケースワーカーに事前に確認しておきましょう。そのため、生活保護を受給している状態で引っ越す場合は、管理費や共益費も考慮した物件探しや、管理費・共益費が家賃に含まれている物件を選ぶ工夫も必要です。ただし最低限の家具・家電は「家具什器費」として受給可能な場合があります。
以下は都道府県・世帯規模などに応じた住宅扶助基準額を、各主要都市を基準にまとめた表です。同じ都道府県、かつ同人数世帯でも市区町村により異なる金額になる場合があります。なお、4人世帯では20~40歳の成人と12~17歳の子どもが2人ずついる4人家族を想定しています。また、7人世帯では75歳以上の高齢者と20~40歳の成人が2人ずつ、12~17歳の子どもが3人いる7人家族を想定しています。
単身世帯 | 4人世帯 | 7人世帯 | |
---|---|---|---|
札幌 | 36,000円 | 46,000円 | 56,000円 |
仙台 | 37,000円 | 48,000円 | 58,000円 |
東京 | 53,700円 | 69,800円 | 83,800円 |
横浜 | 52,000円 | 68,000円 | 81,000円 |
名古屋 | 37,000円 | 48,000円 | 58,000円 |
京都 | 40,000円 | 52,000円 | 62,000円 |
大阪 | 40,000円 | 52,000円 | 62,000円 |
神戸 | 40,000円 | 52,000円 | 62,000円 |
広島 | 38,000円 | 49,000円 | 59,000円 |
福岡 | 36,000円 | 47,000円 | 56,000円 |
自己都合の引越しでは補助が出ない?
ここまでご紹介したとおり、生活保護を受給中であっても、引越しの理由によって引越し費用の受給が可能となる場合があります。しかし、理由が認められなければ受給が認められず、自費での引越しが求められることになります。
受給が認められる理由は総じてやむを得ない理由の場合であり、「もっと広い家に住みたい」「ペットを飼いたい」「今の家に飽きた」などの理由では補助を受けられない可能性が高いです。
引越しをせざるを得ないと感じている生活保護受給者の方は、まずはケースワーカーに相談されることをおすすめします。
生活保護受給者の引越しの手続き

引越し手順は通常とあまり変わりません。物件探しに始まり、引越し業者選定、引越し作業実施という流れになります。
通常と異なるのは、ケースワーカーと相談する必要があるという点です。引越しを考えた段階から、自分の担当のケースワーカーに相談しましょう。また、福祉事務所に引越しの許可を得る必要もあります。自治体に補助金を出してもらう関係上、正確に必要性を伝えなくてはなりません。支給される金額に応じて、選択可能な物件の範囲も限定されます。なお、前述したとおり必要に応じて生活保護の再申請も必要です。
ここでは、生活保護受給者の引越しについて詳しく解説します。
担当ケースワーカーに相談する
まず、自分を担当しているケースワーカーに引っ越したい旨を伝えましょう。ケースワーカーとは生活保護受給者や身体障害者、精神疾患がある人などに対して生活上の相談に乗り自立を促す仕事のことです。必要に応じて医師などと連携しながら、利用者の生活に不自由がないよう援助する役割です。
担当のケースワーカーに、引越しの理由や経緯をきちんと伝えましょう。条件を満たしていると判断されたら、福祉事務所で引越しの許可を得ます。この際、引越し費用がどこまで負担されるのかなどを確認しておくと安心です。
物件を探す
福祉事務所からの許可が取れたら、物件探しを開始しましょう。不動産会社によっては、生活保護受給者の受け入れ可能な物件を取り扱っていない場合もあります。事前に電話で問い合わせたり、複数の不動産会社を回ったりして余裕をもって行いましょう。
また、物件の家賃にも注意が必要です。自治体から支給される金額は決まっており、規定額以上の家賃が必要な物件には入居できません。家賃相場と入居の可否、入居後の予想される出費などを考えてさまざまな物件を検討しましょう。物件が見つかったら不動産会社に初期費用の見積もりを出してもらうと、その後の計画を立てやすくなります。
引越し業者を選ぶ
引越し作業を依頼する業者を選ぶときは、できるだけ費用が抑えられる業者を選びましょう。業者によっては生活保護受給者の引越しを何度も扱っていたり、他社と比べて非常に安いプランを設けていたりします。複数の業者から見積もりをとって、最も安く引っ越せる業者を選ぶことが大切です。
なお、見積もりをとった段階でケースワーカーに相談することも大切です。ケースワーカーにはその都度相談してアドバイスをもらいましょう。
引越し費用を抑えるには見積もりをとって業者を比較することをおすすめします。
補助金を受けとり引越しする
引越し前に、最終確認としてケースワーカーに相談すると良いでしょう。その際には、住宅契約書・契約時の領収書・引越し業者の見積書を持っていきます。
その後、引越し業者や日時、依頼する業者が決まり次第、引越しを行います。新居で使う冷暖房器具、炊事用具の費用も上限付きではありますが支給されます。このときもケースワーカーへ相談する必要があるため、購入品は必要最低限に留めておきましょう。また、水道・ガス・電気などのライフラインは開通に手続きが必要なため、こちらも忘れずに行いましょう。
まとめ
この記事では、生活保護受給者の引越し条件や費用、必要な手続きなどについて解説しました。生活保護を受けていても基本的に問題なく引越しは可能ですが、自治体として引越しを認められる理由がないと自費での引越しになるため注意しましょう。また、住宅扶助には上限があるため、なるべく費用が抑えられる引越し業者を選ぶ必要があります。疑問点などは、福祉事務所や担当のケースワーカーに質問して、スムーズに引越しが行えるようにしましょう。