- 印鑑登録は必須ではありませんが、重要な契約を結ぶ際に必要になる実印を登録する手続きを指します。
- 印鑑登録の住所変更は、転出先で廃止をしてから、転入先で再度登録する必要があります。
- 印鑑登録は本人確認書類の種類や保証人の有無によって、手続きにかかる時間や書類が違います。
不動産売買や車の購入、ローンの契約で必要になる実印を公的に認めてもらう「印鑑登録」は、引越しをした際には手続きが必要です。そのままにしておくと、登録した印鑑が実印として認められていたものが無効になってしまうこともあります。
今回は、印鑑登録の概要と引越しにともなう手続きの方法、印鑑登録の住所変更で気を付けるべき注意点を解説します。印鑑登録をしている人は、本記事を参考に手続きを進めてください。
そもそも印鑑登録とは
印鑑登録とは、所有する印鑑が本人である者を公的に証明するための登録および手続きのことを指します。登録できる印鑑は1人1本と決まっており、家族であっても共有することはできないと印鑑登録条例で決められています。印鑑登録された印鑑は、以下のような重要な契約を結ぶ際に使用するのが一般的です。
- 不動産の売買・賃貸物件の契約
- 自動車の購入
- ローン契約
- 保険金の受取・放棄
- 法人登記 など
印鑑登録は満15歳以上で成年後見人でなければ誰でも登録できます。しかし、個人の場合、登録は任意です。大口の契約をする予定がない場合は、無理に印鑑登録をしなくても問題ないでしょう。
実印とは
印鑑登録で登録した印鑑のことを「実印」と言います。重要な契約で使用される大きめの印鑑のことで、はんこ屋さんに「実印を作ってほしい」と言えばすぐに伝わります。よく混同されますが、印鑑登録とは手続きのことを指すため、混同しないように注意しましょう。
印鑑登録できる実印には条件があり、自治体によってその条件がやや異なります。一般的とされている実印の条件は以下のとおりです。
- 大きさ・形:一片の長さが8~25mmの正方形に収まるもので、三文判・指輪型以外のもの
- 素材:変形・摩耗しないもの(ゴム、プラスチックはNG)
- 印影:逆さ彫り(文字が白抜き)のもの
- 登録できる数:1人につき1本
- 条件:住民基本台帳(外国人の場合は外国人登録原票)に登録されている氏名がかかれているもの
氏名に関しては原則、姓・名ともに記載してあるものがふさわしいとされています。自治体によっては苗字だけ、名前だけでも受理してもらえることもありますが、フルネームのものを用意するといいでしょう。
市区町村をまたぐ引越しの場合、実印として登録できる印鑑に違いがあるため、引越し先の自治体では印鑑登録ができない場合もあります。その場合は実印を作り直したり、別の印鑑を登録する形になったりするため注意が必要です。あらかじめ、転入先の自治体のルールを確認しておくといいでしょう。
印鑑登録証とは
印鑑登録が完了すると、「印鑑登録証(印鑑カード)」を受け取ることになります。一度登録した実印の印鑑証明書を発行する際に使用するものであるため、大切に保管しておきましょう。
小さな紙媒体のカードでもらえることもありますが、マイナンバーカードと印鑑登録情報を紐づけることでICチップに印鑑の情報を記録させることもできます。マイナンバーカード1枚で印鑑証明書を発行できるため、マイナンバーカードを持っている人は登録してしまってもいいかもしれません。
印鑑証明書とは
「印鑑証明書」は、実印が本物であることを証明するための書類です。記載されている情報は登録されている印鑑の印影・氏名・生年月日・住所・性別です。不動産売買などの際に営業担当から「印鑑証明のご準備をお願いします」と言われた場合、印鑑証明書のことを言っています。覚えておきましょう。
発行するには印鑑登録証(印鑑カード)、もしくは情報が紐づけされたマイナンバーカードと発行手数料が必要です。市区町村役場の窓口で発行できるほか、行政サービスに対応したマルチコピー機を設置しているコンビニエンスストアでも発行できます。
引越しで印鑑登録の住所変更が必要な場合
引越しにともなって印鑑登録の住所変更が必要になるケースは、異なる市区町村へ転出する場合です。手続き方法に関しては後述しますが、住民票の異動(移動)のために転出届を提出すると、転出日付で印鑑登録が自動的に抹消されます。ただし、登録は別途行う必要があるため、あくまでも抹消だけが自動でできるということを覚えておきましょう。
反対に、同一市区町村内の引越しであれば印鑑登録の住所変更は必要ありません。転居届を提出すれば、自動で印鑑登録の住所も変更される仕組みです。印鑑登録証も、特別な手続きなしで使用できます。すべての自治体で同様の流れになっているわけではないため、転居届の手続き前に確認してください。
例外として、政令指定都市や東京都の特別区に住んでいる場合、同市内でも区が異なる場合には、手続きが必要となる可能性があります。区によって異なるため、転出前に確認しておきましょう。
印鑑登録を廃止する方法
違う市区町村へ引越しする場合、まず旧住所の自治体の役所で印鑑登録の廃止をしなければなりません。先述のとおり住民票の異動にともなう転出届を提出することでも抹消できる自治体もあり、その場合は発行されていた印鑑登録証を返却、もしくは裁断して処分してしまえば完了です。
住民票の異動と連動していない場合は、一度登録情報を廃止しなければならないため、役所の窓口で必要書類を提出して手続きしましょう。印鑑登録を廃止するには、自身で廃止する方法と代理人に依頼する方法の2種類があります。それぞれの流れを解説します。
自分で印鑑登録を廃止する方法
自分で印鑑登録を廃止する場合、以下の場所・書類・期限で行いましょう。
手続きをおこなう場所 | 転出する市区町村の窓口 |
---|---|
必要なもの |
|
届出をおこなう期限 | 転出日まで |
必要な本人確認書類は、顔写真付きのものであれば1通、顔写真のないものでは2通必要となる場合が多いようです。登録している印鑑も必要なため、忘れずに持っていきましょう。
「印鑑登録廃止申請書」は、窓口に備え付けてあることがほとんどです。窓口に行ったら必要事項を記入し、持参した書類や印鑑と一緒に提出しましょう。転出日までに廃止手続きを完了すれば問題ないため、転出届の提出や国民健康保険証の資格喪失証明書の取得などと同時に済ませてしまうと、手続きが一気に終了します。
代理人が印鑑登録を廃止する方法
本人が窓口に行くことができず、代理人に印鑑登録の廃止手続きを行ってもらう場合は以下のとおりになります。
手続きをおこなう場所 | 転出する市区町村の窓口 |
---|---|
代理申請に必要なもの |
|
届出をおこなう期限 | 転出日まで |
必要なものが増えますが、基本的には同じものを用意すればいいでしょう。委任状(代理人選任届)は各市町村のホームページにテンプレートが掲載されているため、それをコピーして記入してください。代理人が持っていくもののうち、印鑑は認印で構いません。
印鑑登録の廃止手続きは上記2種類です。郵送での廃止手続きはできず、必ず本人か代理人が窓口で申請しなければなりません。どちらかの方法で、転出日までに印鑑登録の廃止をしましょう。
印鑑登録をおこなう方法
引越し後、転入先で印鑑登録を行わなければなりません。印鑑登録は自分でも、代理人でもおこなえますが、本人確認書類の有無で手続きの内容や必要書類が変わります。また、方法によって登録完了に必要な日数も異なるため覚えておきましょう。
登録を完了させる期限はありませんが、転入届と同時に行うようにすれば忘れずに済むでしょう。手続きをするリストを作っているのであれば、印鑑登録も忘れずに追加することをおすすめします。
【顔写真付き本人確認書類あり】自分で印鑑登録をおこなう方法
顔写真付きの本人確認書類がある場合、「身分証明書方式」といい、即日登録ができます。
方式 | 身分証明書方式 |
---|---|
登録にかかる日数 | 当日中 |
必要なもの |
|
手続きの流れ | 転入先の市区町村役所の窓口で申請する |
ここで言う本人確認書類とは、以下のような顔写真付きの本人確認書類のことを指します。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 写真付き住民基本台帳カード
- パスポート
- 在留カード
- 特別永住者証明書
公的に申請者を証明する書類のことで、顔写真がついているものであれば即日で印鑑登録が完了します。なお先述しましたが、マイナンバーカードで申請すると、内蔵されているICチップに印鑑登録情報が記録される仕組みです。後日、印鑑登録証明書が必要な場合はマイナンバーカードと発行手数料を発行することで受け取ることができます。
【顔写真付き本人確認書類なし・保証人あり】自分で印鑑登録をおこなう方法
官公署発行ではあるものの顔写真がない本人確認書類で申請を行う場合は、保証人を付ける「保証書方式」と保証人を付けない「照会書方式」の2種類があります。「保証書方式」の詳細は以下のとおりです。
方式 | 保証書方式 |
---|---|
登録にかかる日数 | 当日中 |
必要なもの |
|
手続きの流れ | 転入先の市区町村役所の窓口に保証人とともに申請に行く |
「保証書方式」では健康保険証や国民年金手帳など、官公署発行の書類が必要です。この場合、顔写真付きの身分証明書がなく、本当に本人であるかの証明方法がありません。そこで、保証人という形で第三者に同行してもらい「この人は申請者で間違いありません」と印鑑登録申請書の裏面にある保証人欄に署名・押印することでその代替とする、という方式です。
ただし、保証人になるには以下の条件を満たしておかなければなりません。
- 申請する同市区町村内に居住していること
- 印鑑登録を済ませていること
印鑑登録申請書の裏面にある保証人欄には、自筆署名のほか、保証人が印鑑登録している実印を押印する必要があります。即日発行できるため役所に赴くのも1回で済むものの、保証人が確保できなかった場合は後述の「照会書方式」しか選択できなくなります。
【顔写真付き本人確認書類なし・保証人なし】自分で印鑑登録をおこなう方法
顔写真付きの身分証明書がなく、かつ保証人が立てられない場合は「照会書方式」と呼ばれる方法で印鑑登録を行います。ここまで紹介してきた方法と若干流れが異なるため注意が必要です。
方式 | 照会書方式 |
---|---|
登録にかかる日数 | 数日 |
必要なもの | 【初回】
【照会書到着後】
|
手続きの流れ | 【初回】 転入先の市区町村役所の窓口で申請し、照会書(回答書)が届くのを待つ 【照会書到着後】 登録したい印鑑と必要事項を記入した照会書(回答書)も持って窓口で印鑑登録証明書を受け取る |
顔写真付きの本人確認書類がなく代理人がいない場合は、申請後に郵送で「照会書(回答書)」が送られてきます。この回答書に必要事項を記入したのち、本人が窓口に提出すれば印鑑登録は完了です。その際、初回で持って行った登録する印鑑を持っていくのを忘れないようにしましょう。
ここまで紹介した方法が、登録者本人が手続きを行う流れです。しかし、なかには本人が役所の開庁時間に足を運ぶことができず、申請できない場合もあるでしょう。その場合は、代理人に印鑑登録を依頼してください。
代理人が印鑑登録をおこなう方法
代理人が印鑑登録をおこなう方法は「照会書方式」のみです。ただし、登録者本人が手続きを行う場合よりも必要な書類が増えています。
方式 | 照会書方式 |
---|---|
登録にかかる日数 | 数日 |
必要なもの | 【初回】
【照会書到着後(本人が行く場合)】
【照会書到着後(代理人が行く場合)】
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手続きの流れ | 【初回】 転入先の市区町村役所の窓口で代理人が手続きしたのち、照会書(回答書)の到着を待つ 【照会書到着後】 本人もしくは代理人が必要書類を持って窓口へ行き、印鑑登録証明書を受け取る |
一見すると複雑なように見えますが、代理人が行く場合は委任状が必要になるだけの違いで、残りの流れは通常の「照会書方式」と変わりありません。委任状および照会書(回答書)の記入および押印は、登録者本人が行わなければならないため、すべて代理人に依頼する場合でも必ず準備をしてください。なお、代理人が印鑑登録証明書を受け取りに行く際は、登録者の本人確認書類はコピーで構いません。
ここまで紹介した方法は一般的な手続きの方法ではありますが、いざ実際に手続きをする際は自治体のHPなどを事前に確認してから手続きを行うようにしましょう。
【印鑑登録の住所変更以外】引越し時にやること
印鑑登録の住所変更のほかにも、引越し時にやることは多くあります。いずれも重要なことばかりであるため、忘れないようにしましょう。リストアップして、ひとつずつ確認しながら進めるといいかもしれません。
引越し前にやること
引越し前にやることは、以下の7つです。引越しにあたって忘れてはいけないことばかりです。時間に余裕をもって、確実にクリアしていきましょう。
【引越し前にやること一覧】
- 物件選び・入居手続き
職場や学校までの距離や間取り、家賃を参考に物件を決める。 - 引越し業者の手配
自身の荷物の量や距離、料金にあわせて引越し業者を手配する。 - 荷造り
引越し当日までに家財の荷造りを行う。引越し業者にお任せする場合は省く。 - 水道・電気・ガスの解約・申し込み手続き
旧居・新居の水道・電気・ガスの解約と申し込みの手続きを行う。 - インターネットの解約・申し込み手続き
旧居・新居のインターネットの解約・申し込み手続きを行う。場合によっては工事が必要になるため。 - 役所での「転出届」手続き
住民票を異動するために転出届を提出する。同一市区町村内の引越しの場合は不要。 - 郵便局の転送サービス手続き
郵便局で新居に郵便物が届くように手配する。有効期限は1年間。
引越し当日にやること
引越し当日には、以下の2つを行います。とくに旧居で忘れると火事などのリスクがあるため、退去前に必ず確認してください。
【引越し当日にやること一覧】
- ガスの開栓立ち会い
旧居・新居ともガスの閉栓・開栓の立ち合いが必要。時間を調整する必要がある。 - 電気・水道の確認
旧居でブレーカー、水道の元栓が閉まっているか確認する。新居では電気・水道ともに問題なく開通しているかを確認。
引越し後にやること
引越し後にやることも重要なことばかりです。忘れないようにリストアップしておき、手続きを完了させましょう。なかには期限が設けられているものもあるため、リストアップをおすすめします。
【引越し後にやること一覧】
- 役所での「転居届・転入届」手続き
同一市区町村内であれば「転居届」を、違う市区町村への引越しは「転入届」を引越しから14日以内に提出する。 - マイナンバーカードの住所変更
マイナンバーカードの住所変更を行う。90日以上経過するとマイナンバーカード自体が無効になってしまう。 - 運転免許証の住所変更
15日以内に最寄りの警察署、運転免許試験場、運転免許更新センターで手続きを行わなければならない。 - 学校・会社での住所変更
それぞれの学校・会社で住所変更を行う必要がある。転校の場合は元居た学校から在学証明書をもらう必要がある。
引越し時に印鑑登録の住所変更に関する注意点
登録の住所変更に際して、注意しておくことがあります。印鑑登録では手続きの方法や本人確認書類の種類、引越しの種類によって必要な書類や手続きそのものが不要な場合があります。以下の注意点を確認して、おきましょう。
手続きに必要なものをそろえておく
印鑑登録に必要なものは、手続きの方法にかかわらず、登録する印鑑と登録者の本人確認書類が必要です。
登録する印鑑には決まりがありますが、各自治体によって登録できる条件が異なります。詳しくは前述の「実印とは」で解説しています。参考にしつつ、各自治体の規定を確認してください。
また、保証人を依頼する場合は保証人の登録済みの印鑑と本人確認書類が、代理人の場合は代理人の印鑑と本人確認書類、それに委任状が必要です。いずれの書類も、忘れてしまうと手続きできないため、役所の窓口に行く前には入念に確認しておきましょう。
一時的な引越しの場合手続きが不要な場合がある
単身赴任や学生の下宿の場合、印鑑登録の住所変更は不要とする場合があります。住民票を移さなくてよい判例と同様、生活拠点が変更していない引越しに関しては印鑑登録の変更も必要ありません。
ただし、単身赴任や下宿中に印鑑証明書が必要になる場合、登録した自治体で発行手続きをしなければなりません。登録した自治体が、コンビニエンスストアのマルチコピー機に対応していれば役所まで行かなくても構いません。
まとめ
印鑑登録の住所変更は、一度廃止の手続きを行ってから、新居のある自治体で再度申請しなければなりません。ほかの行政手続きよりもややこしそうに見えますが、本記事を参考に進めれば、必要書類などで困ることはないでしょう。
保証人や代理人を立てる場合はその人物の許諾も得つつ、委任状の準備をしてください。印鑑登録に変更期限はないものの、大きな買い物や取引をする予定がある人は、引越し後のほかの手続きと一緒にしてしまうことをおすすめします。